この作品は同人であり、実在する名探偵、捜査本部、新世界の神とはいっさい関係ありません

「ん、ん、ぁ」
 髪を掴んでなんとか頭を押しのけようとする手には、ほとんど力がこもっていない。突っ張った足先が小刻みに痙攣するのが、横目に映った。
 強く吸い付かれると我慢ができないらしく、だめですと半ば泣くような抵抗がある。そんなことを言われると煽られるのが人情というもので、僕は先端の窪みに歯を立ててやった。
「やぁ――……っ」
 普段のテノールが嘘のように裏返る。最初は驚いたが、確かに悪い気はしなかった。そういうところが、こんな関係性になだれ込んでしまった一因とも言える。
 涙目で見下ろしてきたLに気づいて、かすかに微笑って見せる。張りつめた根本に軽く口づけると、それでもう限界のようだった。


「そろそろ交代しませんか」
 いつものように一連の行為を終えた後、Lはそんなことを言ってきた。
 何のことだかよくわからない。面倒くさかったのもあり、僕はLに背を向けた。
「何をだ」
「上下です」
 間。
 たっぷりと息を吸う。吐く。こめかみをもみほぐす。瞼を押さえて、もう一度深呼吸する。そうしてから、僕はLに視線を戻した。
「………………は?」
「だから、上下です。受け攻めです。タチネコです」
 淡々と言い募ってくる。何かあり得ないような内容が右耳から左耳に抜けていった気がして―――僕は安らかに目を閉じた。
「どうしてそこで寝たふりですか?」
「いや、今白昼夢を見て」
 白い目で睨まれる。僕は何か間違ったことを言っただろうか。
「そもそも月くんが、さも当然のように乗っかってくるのがおかしいんです。若いからってそんな横暴が許されるとでも思ってるんですか。私の年上の余裕もそろそろ在庫僅少ですよ」
 申し立てがねちっこい。これは思ったより本気のようだ。いいだろう、そっちがその気ならつきあってやろうじゃないか。
「おまえが上に回りたいなんて知らなかったな。むしろ下志望だと思ってた」
「そういうとこが横暴だって言うんです。無根拠ですね」
「や、だって良さそうだったから」
「月くんほんとにモテたんですか?」
 入学早々、東応大のもて王の名をほしいままにする僕に向かって失礼な。その気になればゾーンだって作れるぞ僕は。
「ではこれからは交代してもらえますか。下が構造上どんなに大変か、身をもって知るといいと思います」
「ヤだよ」
 顔をしかめて即答すると、Lは半眼になった。
「巧くもないくせに」
「巧くもない人間の下で毎回あんあん言ってるのは誰だよ」
 ぴしり、と音を立てて、空気に亀裂が走る。
 黙って睨み合う膠着状態になる前に、僕はふッと笑って肩をすくめた。
「だいたい、竜崎はニーズってものがわかってない」
「ニーズ?」
 怪訝そうな顔をするL。
「テンプレと言い換えてもいい。細くて小さいほうが受け、これが世の理、絶対普遍の法則だよ竜崎」
 しかしLは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。気にくわない。
「身長は同じはずです。それに、顔がきれいなほうが受け、という不文律はどうしたんですか」
「穏和攻めでカバーだな」
「世の中には女王受けという鉄則もありますね?」
「甘いもの好きは受け属性だろ」
 口調はあくまでクールに、しかし間髪入れず応酬する。がらがらと音を立てて下がっていく気温の中、僕らは薄く笑いを浮かべていた。
 Lが口の端を引き上げる。
「言い争っても不毛です。ここは折衷案を採りましょう」
「折衷案?」
 聞き返すと、Lは鷹揚にうなずいた。
「持っている属性が対等なら、これしかありません。これならどちらにも受け入れやすく、無意味な論争を引き起こすこともない。いわば世界平和です」
「もったいぶるな」
「そう焦らないでください。時には受け、時には攻め、状況によって入れ替える―――つまり、リバーシブルです」
 それは確かに妙案のように思える。そもそも、対立するふたり、というのは、下克上や師弟関係よりも、上下がフレキシブルであることが多い。ここでそれを適応するのは常套手段でありながら上策だった。
 が。
「ふ―――浅いな、竜崎。おまえともあろう者が」
「なぜですか」
 白々しくとぼけるLに、僕は看破した。この程度の餌に引っかかるような、鬼畜攻めと穏和攻めを兼ね備える僕ではない。
「おまえは最初に『上下の交代』を要求してきた。そのこと自体がリバーシブルに他ならないだろうッ!」
「…………!」
「譲歩したように見せかけたつもりだろうが、おまえは最初の要求から何一つとして主張を変えてはいない。この後僕に下をやらせるつもりなのはバレバレだよ」
 完全に見抜かれ、だがLはそれでもなお体勢を崩さなかった。あくまで泰然とした素振りで言う。
「確かに要求を変えてはいません。が、それが折衷案であるのもまた事実です。月くんの言うようにニーズを考えるのなら、受け同士で百合だとか、攻めと攻めだとか、そういうものも考慮して、どちらもできるようにしておくべきでしょう。だいたい、今時主人公のくせに下に回らないというのは、ニーズに適しているとは言えません」
「主人公といっても、友情・努力・勝利の中ではかなり浮いた、誌上史上でも五指に入るダークヒーローだからな。一緒くたに考えることはできないだろう」
「今キラだって認めましたか? ―――昨今ではダークヒーローもかなり増えてきていますし、むしろ流行りと言ってもいい。そんな中で、月くんは自分の可能性を狭めようと言うんですか」
「おまえに広げられるくらいなら狭まったほうがマシだ。いいか竜崎―――受け攻めの真髄を教えてやろう。上下とは、究極的には何で決まるのか」
 ゆらりと立ち上がって、腰を落とす。Lもそれを見て取って、少しずつこちらから距離を取った。地に這うような低い構え。
 勝ち誇ったように高らかに、僕は吼えた。
「上下を決定するもの、それは、最終的には好みだ! 属性なんか後付なんだよ!」
「―――身も蓋もない―――山も落ちもない!」
 振り下ろされた拳が足裏で止められる。一瞬の邂逅の後、僕らは互いに飛び退いて宣言した。
「よく聞け竜崎、僕が」「いいえ月くん、私が」
『攻めだ!』


 隣の部屋から大きな物音が聞こえてきて、松田はぽかんと口を開けた。隣には月くんと竜崎しかいないはずだが、たとえるなら、子猫を十数匹詰めた風船が爆発したような音だった。もちろんそんなシチュエーションに出逢ったことは一度もない。
 ソファで悠然とモニタに向かっている執事に、隣室を指さす。
「あの……様子を見に行ったほうがいいでしょうか」
「放って置いたほうがよろしいでしょうね」
 老人の返事があまりにも即答で、しかも続いて聞こえてきた悲痛な悲鳴にも無反応だったので、松田は、はあ、とうなずくしかなかった。





テーマは「 月Lでギャグ ・ ちらりとエロ 」 でした。
リクエスト御礼申し上げます!


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