走り書き・4
「ついに見つけた……と、言いたいところだが。正直ここまでは考えもしなかったよ。まさか、」
 と、そこで言葉を切る。大仰にしたかったわけでも、余裕を見せつけるためでもなかった。ただ唾を飲み下す、それだけの間だ。
 呼吸を整えてもまだこめかみをつうっと汗が伝うのを自覚しながら、月は眼前の男に指先を突きつけた。
「まさか、おまえが人造人間だったなんて」
 巨大な水槽を背にして、Lは微動だにしない。親指を口元に当て、いつもの猫背で立ちはだかっている。漆黒の双眸が何の感情もはらまず見返してきた。
 広大な工場だった。数多の水槽と、付属するコンピュータの群。それらを接続する太いコードが、タイルの上を縦横無尽に張り巡らされている。そしてすべてが、月のすぐそばにあるマザーコンピュータにつながっているのだ。マザーコンピュータは、床から、高さ3メートルはあろうかという天井を突き抜けてそびえ立っている。おそらくは上の階も同じ仕様になっているのだろう。
 冷や汗が止まらなかった。これだけの規模の工場――研究所というにはあまりに機械的すぎる――が、あと何階分あるのだろう。工場の端は茫洋として見えず、すでに水槽は数え切れないというのに、あといったいいくつの水槽が存在しているのだ。
 水槽の中には人間がいる。姿形の、まったく同じ人間が。
「これが、探偵‘L’の正体です」
 種明かしをするにしては淡々としすぎた口調で、Lが告げてきた。
「理想的な頭脳を持った、理想的な人間を、無尽蔵に生み出し続ける。すべての個体は記憶を共有し、完全に同じ思考回路を持っています。根本的には異なりますが、まあ、クローンのようなものと考えてもらっていいでしょう。経験を蓄積するクローンです」
 荒唐無稽だ。笑い飛ばしたい。とても笑えない。
 引きつった喉をなんとか震わせて、月は挑んだ。
「こいつらの管理はこのマザーコンピュータが行っているんだろう。これを壊したらどうなる?」
「無駄です」
 応じる声には動揺の片鱗も見えない。
「ラボは世界各地にある。しかも常に新しいものが作られています。数もわからない施設を全部破壊して回るなんていうのは、およそ不可能ですね。ついでに言うと、緊急時には完成している個体を脱出させるのが最優先されます。世界中に放逐された‘L’を虱潰しに探すのは、それこそ神業ですよ」
 ひどい皮肉に下唇を噛む。せめて目の前にいるこいつだけでも視線で殺せやしないかと睨みつけるが、Lは平然と水槽を示してみせた。
「自身が完璧に近い頭脳を持つ発明家で、まれにみる天才科学者だったキルシュ・ワイミー。彼が研究結果の粋を集めて作り上げた、理想の探偵と、そのサポートユニットたる‘ワタリ’を半永久的に生み出し続ける機関――――それが、Endless Learning and Loading Eidolon システム……通称、Lシステムです」



第一部終了時大胆予想シリーズ「新造探偵L〜もういい加減増えないでくれ〜」
Eidolonてのは理想像だとか幽霊・幻影という意味があるギリシャ語だそうです。



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